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評価:
上橋 菜穂子
講談社
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原作者・上橋菜穂子さんがアニメ『獣の奏者 エリン』内のブログで、<探求編><完結編>のまだ出版されてない生原稿をアニメのスタッフである浜名監督や藤咲さんらに読んでもらっていたことを書かれています。その中で藤咲さんに『ウエハシ、コロス!』と言われた(笑)と。それを読んだ時“なぜだろう?”と思っていましたが、その謎が解けました。それ言った理由、わかるな、と。(笑) 上橋さんの物語だから、決してお決まりのはっぴーえんどに終わらないことはわかっていましたが、最後はちょっと意外でした。そう来たか、と。今回の<探求編><完結編>は、前の<闘蛇編><王獣編>と違って、どうしても戦争を起こしたがる人の業を綴っているのかな、とも思えました。上橋さんが意図したものとはちょっと違うかもだけど。
それにしてもあのアニメの最後。正にこの物語の最後とうま〜く上手に重ね合わせてあり、浜名監督と藤咲さんの粋な演出に感銘しました。すばらしかった。(^^)
一番思ったのは、人は、過去にあった悲劇とか惨禍とか、むごい仕打ちをしたこととか、後の人に包み隠さずに、全てそのままを途絶えることなく、残していかなければいけないんだ、ということでしょうか。この物語は異世界の話ではあるけれど、今の日本人にも当てはまることが十分あると思います。今、日本人が抱えてる歴史的なジレンマとか、全部過去の人によって隠されていることから来てるんじゃないですか。隠しちゃだめだ。悲劇は、隠されたところから始まるから。この『獣の奏者』の物語のように。
・・・
1月11日:追記してます。(^^)
読み終えて1日経って、まだ心の中にはエリンとイアルの想いが心の奥のほうにどーんとあって、この世界の中にまだちょっと浸っていたいな、という思いがありまして。
実は本当のことを言うと、私は『守り人シリーズ』のほうが好きです。あれは、人の成長(心も体も)の物語であり、冒険ものであり、異世界と人間との物語であり、為政者の苦しみの物語であり、様々な国と国との大いなる政治の駆け引きの物語でもあり、もちろん経済も関わってくる。そして家族や恋人との愛情物語でもあり、と。。本当にたくさんの要素のある稀有な物語だと思っています。しかも、上橋さんが長い時間をかけてゆっくりシリーズを書いてきたので、シリーズ全体の流れもゆったりしてる。バルサやチャグムはいろんな国を旅するので、自分もまるで彼等と異世界の様々な国を旅しているような感じになれて楽しいです。あの旅は、バルサとチャグムの心の旅でもあったのがまたよかった。こちらはチャグムで言うと11歳〜17,8歳までの6,7年の話を10巻で綴られている。でも『獣の奏者』シリーズは4巻。時間軸で言うと、守り人シリーズよりも長い時間を物語っていると思うけど(エリン10歳〜30代半ばまでの20年余り)、場面設定が守り人シリーズよりもかなり狭いことと、児童書ではないので割と理詰めのことがたくさん出てくる。。それと、長い時間軸の割には4巻だけなので、なんとなく話が急っているような印象を受けました。(本来ならもっとたくさんの支流が入っているはずなので、もっとゆったり書いてくださればよかったのに・・・、とも思いました。)ということで、私的には『守り人シリーズ』のほうが好きです。
けれど。
イアルとエリンとジェシ、それとリランの物語は強烈な勢いで心に残ってます。
イアルがエリンとジェシを想う気持ちや、エリンがイアルを想う気持ち、ジェシを想う気持ち、そしてエリンの半身のようなリランを想う気持ちがあまりにも深くて切なくなります。。最後は実は悲劇に終わるんだけど、それを上橋さんは最後の最後でうまく昇華させている。“何かを為すには、人の一生はあまりにも短い。”・・・ 印象的な上橋さんの言葉です。