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評価:
上橋 菜穂子
偕成社
幼い頃の物語
日常の割り切れなさが絶妙
バルサ13歳、タンダ11歳。「守り人」シリーズの魅力的な番外編、四つの短編集です
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この本の流れとしては、13歳のバルサと養父ジグロの流浪の旅での出来事、そしてタンダとの交流などを、4つの短編の中に1つの流れとして描かれています。上橋さんのメッセージの中にあるように、最初に書かれたのが『ラフラ(賭事師)』。アズノというラフラ(賭事師)の毅然とした生き方が、ジグロとバルサのエピソードを交えて描いてあります。最後がなんとも切なくて、悲しくなってくるんですが。。
切ないと言えば、この各短編に出てくる物語の中心的人物(バルサ、ジグロ、タンダ以外)が、どの人も誠実に人生を生きていながら、最後が悲しいことになっていて・・・。救われるのは、短編最後の『寒のふるまい』だけかな。。これだけ、読むと温かい気持ちになって、ちょっとほっとします。
あとは、この短編の目玉はやっぱりどうしてもジグロですね。(^^)
守り人シリーズ本編の中ではもう亡くなってしまっている人物で、エピソードが出てきてもほんの少しだったんですけど、この短編集の中では生きているジグロが出てくる。これはもう、すごい存在感で生きている。。実在の人物じゃないのに、です。。
ジグロが武人として非常に優れていた、と思わせる部分を少し。(^^)
---短編『流れ行く者』より --
激痛に耐えかねて、身もだえしている男を見て、バルサはつぶやいた。
「こいつらも、手当てをしてやらなきゃ・・・。」
男の身体の上にかがみこもうとしたとたん、大きな手に頭をはたかれて、バルサはぐらっと脇に倒れかけた。びっくりして見あげると、ジグロが射抜くような厳しい目で見つめていた。
ジグロはなにもいわず、すっと目をそらし、また、男たちに視線をもどした。
なぜ、頭をはたかれたのか、ふいにわかって、バルサは赤くなった。-- 生半可な同情で男の上にかがみこみ、首でもにぎられたら、状況は一気に逆転してしまう。
--武器をもっていなくても、利き腕を殺していても、けっして油断するな。
やり方さえ心得ていれば、人は、爪でも歯でも、指一本でも、人を殺せる。
倒した敵のそばにいるときこそ油断をするな。そういわれていたのに、苦痛の声に、つい気をとられた自分が恥ずかしかった。
「・・・人を殺すつもりで、」
ジグロがつぶやいたので、バルサは、はっと顔をあげた。
「こいつらは剣をふるった。-- 剣を抜いたとき、命を刃に乗せたのだ。」
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この最後の言葉は、カンバルで男親が子どもが成人した時に短剣を授けるときに言う言葉でしょ。アニメの中でも、バルサが親代わりとなってチャグムに短剣を授ける時に言う言葉として使われていましたよね。それを、ただの言葉として捉えていたのではなく、武術の精神としてジグロの中にしっかりと刻み込まれていたところに、思わずはっとさせられました。
ジグロがどのくらいバルサを大事に思っていたか、のエピソードもこの『流れ行く者』の短編の中にあります。とても感動的な場面だった。。
是非、ご一読を。(^^)